私の、理想の、学びの場。
こんばんは、結城浩です。
いよいよ今週末には私の新しい本『数学ガールの秘密ノート/確率の冒険』が刊行になります。とても楽しみです。
昨日は一日、新刊にサインをしていました。新刊発売のタイミングで販売される《サイン本》を作る作業です。編集部から新刊が詰まったダンボール箱がどかどかと送られてきて、私の部屋は本屋さんの匂いになっていました。一日がかりで、三桁冊に及ぶ新刊に結城のアイコン「スレッドお化け坊や」を描きましたよ。
今日は、送られてきた箱に再び《サイン本》を詰めて編集部に送り返す作業をしていました。確実に配送してくれる宅配業者には感謝ですね。
さらに今日は、編集部から《サイン本》を取り扱う書店さんのリストが届いたので、その情報を読者さんにシェアするためのページをさくっと作っていました。《サイン本》だけではなく《メッセージカード》を同梱した本も販売されます。《メッセージカード》は私が描いたカードを原本として、印刷したカードになります。
いずれにしても、こういった作業は著者である私にとっては喜びの作業です。新刊が出るタイミングではいつも行っていることですが、毎回とてもうれしくなります。だって、だって、新しい本が出るんですから!
今回の『確率の冒険』は「数学ガールの秘密ノート」シリーズの第14作になります。「数学ガール」シリーズが6作刊行されていますから、両方を合わせるなら20作出ていることになりますね。あ、そうだ。数学ガールという名前を冠した本という意味では、2013年に出た私の講演集『数学ガールの誕生』もありました。ともあれ、いつのまにかそんなにたくさん出ていたなんて、と作者である私がびっくりしています。
今年の夏に刊行した『数学ガールの秘密ノート/複素数の広がり』は、社会情勢の影響で刊行が数ヶ月遅れ、とても心配しました。2020年に刊行を予定していた二冊の本を何とか出すことができ、私はほっとしています。尽力してくださった編集部や、応援してくださる読者さんには心から感謝です。
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今日は、《サイン本》の配送作業の他に「次の本」の準備もちょっぴり進めていました。コードネームをDISCと名付けている本です。全体の分量的にはだいぶ進んでいるのですが、細かい修正が大量に発生すると思われます。なので、何とかうまく回していきたいところです。
原稿のあちこちを修正したときに、統一性がなくならないようにチェックするプログラムを作りながら執筆をしています。LaTeXで書いた原稿ファイルを読み込み、使っているLaTeXのコマンドを解析したり、文言の確認を行ったりするRubyのスクリプトです。
原稿のチェックを行うプログラムといっても、そんなに大げさなものではありません。単純なパターンマッチの繰り返しで見つかる程度のチェックです。しかしながら、原稿ファイルの数や修正の量が多くなってくると、単純なパターンマッチだけでもずいぶん助かるものです。機械的なチェックはできるだけ機械にまかせて、私は原稿の内容にできるだけ集中するように心がけています。
私はそのような、機械と人間の共同作業が好きです。機械は機械の得意なことを行い、人間は人間の得意なことを行う。ああ、そうそう、その話は『プログラマの数学』のはじめにも書きましたね。
難しい問題にぶつかる。人間だけでは解けない。コンピュータだけでも解けない。でも、人間とコンピュータが力を合わせれば解ける。その姿を描くのも本書の目的のひとつです。(結城浩『プログラマの数学 第2版』p.ivより)
もっとも最近は機械学習の進歩が著しく、「これまでは人間にしかできないと思われていたことでもコンピュータがかなりできる」状況があちこちに見られますけれどね。
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明日は木曜日。Web連載「数学ガールの秘密ノート」を書く一日です。連載第310回となる「読むための対話」の第10話目はこのシーズン最終話となります。時間の経つのは早いものです。
「僕」とユーリとノナちゃんの数学トークは書いていて(難しいところもありますが)楽しい発見がたくさんあります。数学物語を書いていて楽しいのは、登場人物たちがそれぞれに持っている観点や関心事が違うということ。同じ問題を解く場合でも、三人の見ているところが違い、納得するポイントも違う。相違点はあるものの……というか相違点があるからこそ、何ともいえない場がそこに生まれ、広がるように感じます。まるで、協奏曲のように。
複数の仲間がひとつの問題に取り組み、意見を交わしたり議論をしたり質問したり答えたりする。そのやりとり、その対話は、決して相手に対してマウントを取るためのものではないし、相手をやっつけるためのものでもない。お互いに敬意と親しみを持って接し、真摯な態度で共に問題に向かう。各人が違う観点を持ち、別の角度からひとつの問題に向かう。だからこそ、それぞれに深い理解に至る。
数学ガールの物語を書きながら、結城はいつも、そのような麗しい学びの場に自分も共に参加しているように感じます。
私の、理想の、学びの場。
きっと、私はそんな物語を描きたいのでしょうね。
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今日のあなたは、いかがお過ごしでしょうか。気が向いたときにお返事をいただけたらうれしいです。
それでは、また。