小川洋子『物語の役割』
こんばんは、結城浩です。いかがお過ごしですか。
先週は後半にちょっと体調を崩してしまいました。消化の悪いものを食べた影響で二日ほど伏せっていたのです。一日は気分が悪くて何もできず、二日目も机に向かう元気はなく寝床でときどき本を読むくらいの活動しかできませんでした。雑誌連載の〆切と書籍の脱稿予定があったのですが、それぞれの編集者さんに連絡をしてずらしていただきました。申し訳なかったです。
今週に入ってからはだいぶ復調して、昨日は結城メルマガを書き、今日は先週出せなかった雑誌連載のコラムを出すことができました。あとは今週末に書籍の脱稿ができればオーケーというところまでたどり着きました。
体調を崩すのはよろしくありませんが、そこから復調していくときの気持ちはそれほど嫌いではありません。普段あたりまえにすごしていることがいかに大事なのか実感しますし、無理せず毎日のやるべきことのポイントを絞って片付けていくのも手応えがあります。「今日はこれをここまで。まとめは明日」のような切り換えもいい感じです。普段からそうすればいいという話でもありますが。
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先日読んでいた本は、作家の小川洋子さんがお書きになった『物語の役割』という新書です。小川さんが講演なさった内容を文章にまとめたもののようです。タイトルの通り、物語というものが持っている役割について、小川さんの子供時代の経験や、作家としての執筆活動を通じて感じ取ったことが書かれています。
当然ながらたいへん読みやすく、優しい文章でありながらときに重い内容にも触れた一冊でした。小説が生まれる現場の話も書かれています。小川さんが大学の文芸科で学んだ経験について書かれた第二部「物語が生まれる現場」から一段落だけ引用します。
結局、技術的な問題は本人が独自に習得していかなければならないものですが、文芸科に身を置いたことでよかったと思うのは、常に傍らに文学があって、それを尊ぶ雰囲気、環境の中にいられたということです。それがいまの私にとっての財産です。国家資格がとれるとか、就職に有利だとか、目に見える目的のためではなく、ただ心静かに物語の世界に向かい合って、そこに立ち現れてくる人々と無言の会話を交わす。そういう喜びのためだけに時間を使う。それは尊いことなのだという雰囲気の中に、少なくとも四年間いられたのが、私にとって幸いな経験でした。
(小川洋子『物語の役割』第二部「物語が生まれる現場」より引用)
結城はずっと「物語」についてあれこれと考えており、この『物語の役割』という本もその流れで昨年購入したものでした。もう少しちゃんと書くと、結城にいつも素敵なフィードバックを送ってくださる読者さんから教えていただいた本です。結城がメルマガなどで物語をメタにとらえることが多いので、きっとこの本も気に入るでしょうと推薦してくださったのです。
ご推薦いただいた直後に購入したのですが、それは実のところ2019年5月のこと。何と一年半以上も経って、私が体調不良になった今回、ようやく開くことができたのでした。
しかしながら、私にとってまさにちょうどいいタイミングで読むことができた本かもしれません。この『物語の役割』を読み終えてから、たくさん本を読みたいし、いろんな文章を書きたいという気持ちが強くなったように思います。私が最近ずっと考えていることに光が当たるような、そんな感覚もありました。この体験がどんなふうに執筆に生きるかはまだよくわからないのですけれど。
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今日は、そんなところです。
またお便りしますね。
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