ドライヤーと謎解きと
こんにちは、結城浩です。
昨日、初校ゲラのPDFが届いたので、さっそく読み始めています。修正箇所はたくさんあるんですが、いつもの初校ゲラよりはスムーズに読めるような気がします。脱稿する時点で結構読み込んでいたからなのでしょうか。だと良いのですが。
ゲラを読むときはいつも、手触りのようなものを感じます。ざらざらと引っかかる感じなのか、それともなめらかでスムーズなのか。そのような手触り、物理的な感触があります。面白いものですね。
あなたは、いかがお過ごしですか。
* * *
お腹にドライヤーを当てる話はしましたっけ。私は朝起きるとすぐに、お腹にドライヤーを当てます。温風をお腹と背中に当てて身体を温めるのです。すると、目が覚めるとともに、すっきりとした気分、前向きな気分になれるからです。変な表現ですけれど、私はその変化を「内臓が本来あるべき場所に収まる」と心の中で呼んでいます。
お腹にドライヤーを当てるのと似た効果があるのは、もちろんお風呂です。でもお風呂に入るよりはお腹にドライヤーを当てるほうがずっと手軽ですし、一日に何回でも気軽にできるのでいいですね。
身体の調子を整えたり気分をすっきりさせたりしたいとき、あるいはまた本腰を入れて仕事にかかるときなどはコーヒーを飲みます。ホットコーヒーのときが多いですがアイスコーヒーもいいですね。
でも、調子に乗ってコーヒーを飲み過ぎると頭がぐるぐるするので、分量は注意しています。午前中はカフェイン入りで、午後や夜はデカフェにするのも同じ理由からです。
家で仕事をしていると気分転換はとても大事です。お腹ドライヤーとコーヒーの他にはお昼寝が大きな気分転換です。頭がぼーっとしたり集中できなかったりごちゃごちゃして何を考えてるか分からなくなったときはさっと寝てしまいます。最近はお昼どきに二十分くらい仮眠をとるのが習慣になっています。起きたときには頭はかなりすっきりしますね。
私が心がけている仮眠のコツはiPhoneを見ないこと。お昼寝するときには、寝床から少し離れたところに20分のアラームをかけたiPhoneを置いて寝ます。寝る前に「ヘイ、Siri、20分タイマーセット」とSiriに命じます。お昼寝のときに寝床までiPhoneを持ち込むと、眠るでもなく起きるでもない状態で時間が過ぎてしまい、午後が活用できなくなってしまうのです。
* * *
今日は金曜日なのでWeb連載「数学ガールの秘密ノート」が更新されました。今シーズン「読むための対話」は、数学的にはそれほど難しくないのかもしれませんけれど、それでもちゃんと考えて書こうとすると、たくさんの難しさに出会います。
その「難しさ」を、いまこのメールで一つ一つ書き上げることはしません。でもその「難しさ」は、そのまま「楽しさ」でもあるようです。それは確かですね。頭と心を使って考え、そして文章を書くのは楽しい作業なのです。
ひとつだけ「難しさ」を書いてみます。登場する彼女たちの対話を書きとめるのが私の仕事ですが、その場にならないと彼女たちが何を言い出すのかわからないという難しさがあります。私としては文章をこう進めたいという意図はあるのですが、それとは異なる力学が必ず働くのです。対話には流れがあるので、書き手の私がその流れに完全に逆らうと不自然な対話になり、流れに完全に従うと散漫になってしまいます(いや、そう単純でもないのですが)。
対話とは、謎解きです。対話に登場する彼女たちは互いに謎解きをしていますし、書き手である私は、対話に耳をすまして「彼女たちはどんな謎を抱え、どんな謎解きを試みているのか」というメタな謎解きをしています。多次元に渡る謎とその解決が本来あるべき場所に収まるように願いながら。
* * *
ともかく、そんなふうに頭と心を総動員するのは、私にとって難しくもあり、楽しくもある作業です。
頭を使わずぼうっとするのもいいのですが、適度に頭を使うのもいい。それはちょうど、適切な負荷の運動をするのに似ているかもしれません。運動をしていないので「身体が鈍る」という表現がありますよね。それと似ていて「頭が鈍る」ときがあります。そういえば「心が鈍る」こともあるのでしょうか。よくわかりません。
何にせよ「適切な負荷」というところが大事だと思います。身体が鈍ってるからといっていきなり重いバーベルを上げるわけにはいきません。それと同じように、何かを考えるときも「適切な負荷」であることが大切じゃないでしょうか。取り組む内容の重さの点でも、時間の点でも。
あっと、このメールは徹頭徹尾わたし自身についての話です。誰かのことを書いているわけでもなく、主語を大きくしたいわけでもなく、「私はこんなふうに思う」というだけのことです。
どうしたら適切な負荷を掛けて、頭が鈍らないようにできるんでしょうね。ぼんやりするでもなく、無謀な挑戦でもなく、適切な負荷を掛けるには、自分のわかってるところからスタートするしかないのかな。きっとそうだな。
何も見ずに自分が話せるところから。自分が「確かにこうだ」といえるところから。そこから考え始めるのがいいんじゃないでしょうかね。
たとえそこが他人にはつまらないところであっても。たとえそこが何回も訪れたところであっても。
* * *
今日の私は、そんなことを考えています。
今日のあなたは、どんなことを考えていますか。
お時間があるときに、お返事をいただけたらうれしいです。
それでは、また。
「お腹ドライヤー」の話(結城メルマガ)
第303回 読むための対話:条件の行方(前編)(Web連載)
数学ガールに数学苦手なキャラクタが登場するという新しいチャレンジ(結城メルマガ)
数学ガールの秘密ノート/学ぶための対話 (書籍)